左右のマットレスからはそれぞれ全く違うイメージを受けました。#03（左）はゆっくりと深く眠り、静かに浮き上がる、まるでひとりで小さな灯りを頼りに旅をしているような、心地よい孤独感のある眠りを体験できました。#04（右）は逆にメリハリがあり、寝た時の自分と起きた時の自分が別人、または入れ替わったかのような、常に新しい自分になるという不思議な体験でした。どちらも経験したことのない体験でとても興味深かったです。

2つのマットレスに寝転んだとき、空気を含んだウレタンフォームがやわらかく身体を包んでくれる#05（左）、ラバー質で弾力がありしっかりと身体を支えてくれる#06（右）、という印象を受けました。そこから着想し、それぞれの寝心地を、色・質感・形で表現しました。

普段生活していて自分にのしかかってくる重力がベッドに横になることにより存在感を失った感覚がありました。宇宙における無重力状態以外で、地球でそれに似た浮遊感を体に覚えさせられる場所は水の上にしかないと思っていたのですがこのベッドの上にもそれがありました。同じ水の上でも、直接体に触れる水と船の上から感じる水とでは感覚が違います。寝比べたときにそのような差を感じました。

Light Breeze Seriesに横になった時に感じる心身の安らぎから得たインスピレーションを元に描きました。モチーフの丸はやわらかさ、包まれる感覚を。また、幾つも重なることで寝て起きるまでの継続的な安らぎや時の流れの意味合いも込めました。色と光のコントラストには朝と夕のイメージを重ねており、朝(#09/右)の健やかな空気と一日のはじまり、夕(#08/左)は日が沈んで緊張が徐々にほぐれていく時のイメージです。

実際に寝てみると大きなものに包み込まれているような安心感を感じたので、その感覚をなだらかな山で、上部の白いオブジェクトと色相によって左右の微妙な感触の違いを表しました。山をできるだけリアルに描くことで空に浮かぶ抽象的なオブジェクトと対比させてシュールレアリズム的な夢の中の世界を目指しました。

寝心地を体験したうえで「眠りの世界の広がり」を2枚の絵で表現しようと考えました。自分はこれまであまりマットレスにこだわった事がなく、今回の体験をきっかけにあまり目を向けてこなかった眠りへの関心が高まったためです。それぞれの絵は雪山の山頂のような抜けのよい爽やかな目覚め、海底に沈んでいくような深い眠りをイメージしました。全体的に淡いトーンで夢の中で見るようなぼんやりとした風景を表現しています。